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「手元資金は売上の3か月ぶん貯めてておく」という“定説”に根拠はあるのか?

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会社にどの程度の手元資金(現金・預金の保有高)を貯めておくべきか?――そんな質問を受けることがあります。

一部報道によると、上場企業においては、現金や内部留保を貯め込むのではなく、給料や設備投資、あるいは配当に回すよう、「内部留保課税」や「研究開発税制などの税額控除適用の厳格化」などの政府案も取りざたされています。

一方、リーマンショックなどでの教訓を得て、身を守るため、あるいはM&Aなどに備え、現金・内部留保の確保に動く大手企業も多い。

では、中小企業ではいったいどう考えるべきなのでしょうか。

「売上の3ヵ月ぶんくらいを置いておけば盤石」といった“定説”も散見されますが、その数値に果たして根拠があるのか? 答えは「NO」というのが私の考えです。

会社が10あって、経営者が10人いれば、事業に対する考え方、あり方も10とおりある。ならば、手元資金の適正額も変わってくるはずです。
正解はないというのを前提に、多くの方が抱くであろう疑問点から、手元資金の考え方について、私の考えを書いていきたいと思います。

疑問①「個人より、法人のほうが税金は安い。儲かっても、役員報酬として払い出すより、会社に利益を残したほうがトク?」

所得税の最高税率は45%。住民税と併せれば、所得の半分程度を持って行かれることになります。
一方で法人税率は、30%程度。
ならば、利益が出ても、役員報酬は据え置き、手元資金として会社に残しておいたほうがいいというのは、正しい側面もあります。

しかし、利益がどんどん貯まっていくと、会社の価値(株価)もそれにつれて膨れ上がっていきます。

すると、来たる事業承継や廃業の際には、そこに相続税が加わってきます。事業承継税制の特例の創設なども税制改正案に挙がっていますが、長い目で見れば、「会社に現金を置いておいたほうがトク」とは言えないことは覚えておくべきでしょう。

疑問②「手元資金、内部留保を高め、会社の価値が上昇したほうが、メリットがある?」

会社の価値が上がることは、“イコール悪”ではありません。
とくに上場企業や、官公庁などが取引先で手元資金や内部留保額が問われる業種であれば、そうでしょう。
ただし、一般的な中小企業においては、手元資金の額しだいでメリット・デメリットがあるかというと、それほど影響しないというのが現状だと思います。

疑問③「万が一、売上が立たなくなった際に、キャッシュがないとリスク大なのでは?」

大企業も含め、多くの経営者が懸念するのが、この問題だと思います。
では、いくらあったら、いざという時に身を守れるのか? 自身の不安が解消されるのでしょうか?

冒頭で書いたように、売上の3ヵ月分あれば、盤石なのでしょうか?
先にリーマンショック時の教訓を挙げましたが、とくに中小企業においては、取引停止や単価の大幅ダウンにより、3ヵ月ぶん程度のキャッシュでは、間に合わないというケースも多かったのではないでしょうか。

不安を解消するには、手元資金が多いに超したことはないかもしれませんが、だからといって1億、2億を貯めようと思っても、そのハードルは高い。そして、相応の現金があっても、売上が立たなければ、あっという間に資金は枯渇してしまうのです。

では、手元資金の額について、どう考えるべきか。3つのポイントから解説しましょう。

ポイント1 事業は継続性が大事。資金が回り続けるならば、手元資金はいくらでもいい

事業とは、継続性が命です。先にも申し上げたように、いくら1億円規模の大口の取引先を擁し、キャッシュも貯めていたとしても、1~2社に依存し、そこに何かがあれば、事業は継続できなくなってしまいます。

しかし、経営者1人でやっているような会社であれば、億規模の売上でなくても、毎月数10万円ずつでも、決まって入ってくる売上があれば、なんとかしのげるはずです。

と考えるならば、こだわるべきは、手元資金の額ではなく、「売上を継続して上げつづける仕組みを作る」こと。さらにビジネスの実態や自身のリスク許容度に合わせ、「これぐらいは手元に置いておこう」という、自分なりの目安を持つことがポイントだと思います。

ポイント2 事業の安定性≠手元のキャッシュの多寡=事業基盤の問題

ポイント1に関連し、「手元にキャッシュがあれば経営が盤石」とはいえないということは、おわかりいただいたと思います。

事業を継続するということは、経営を回し続けるということです。
つまり、事業基盤の構築が肝要。その強化のためには、“守り”だけではなく、“攻め”の姿勢も必要になります。

例えば、200万円を銀行に置いておいても、限りなくゼロに近い金利しかつきませんが、新たな人材採用や、新規取引に充てることで、数倍の利益を生み出す可能性もあります。

事業基盤を作っていく観点では、時には将来のために思い切って投資する。ダメだと見切ったら、撤退する。こうしたアクションも、身軽な中小企業だからこそ起こせるものではないでしょうか。

ポイント3 世の中の平均や標準にこだわっている限り、大きな成功は成し遂げられない

再三、申し上げていることですが、世の中の常識や平均、標準には大した根拠がないことが多い。

成功している経営者を見てもわかるように、彼らの大半は時に無謀ともいえるような経営判断を下し、新たな道を開拓し続けています。

もちろん、リスクヘッジは重要ですが、「常識」や「平均」ばかりにこだわっていては、成功はおぼつかない。さらに、“守り”の姿勢だけでは、現状を維持しているようで、大抵、少しずつ“下り坂”に向かうというのがビジネスの現実だと思います。

手元の資金をいくら貯めるかより、まずは1件でも新たな取引先を見つける。そして確実に売上を上げていく。とくに中小企業においては、少しずつでも“右肩上がり”を維持していける“仕組み作り”に注力すべきと心得ましょう。

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