「電卓を速く叩く」より、税理士にとって大事なコトは?
「税理士なんてヤメたほうがいい!」と叱られたある出来事
税理士といえば「税金を計算をする人」。そんなイメージを持っている方も多いと思います。
また、税理士の中には「計算が得意」だから「税理士になった」派も多いかもしれません。
しかし、ここでカミングアウトするならば、私は計算が決して得意ではありませんし、好きでもありません。もっといえば、税理士にあるまじきことかもしれませんが、電卓を叩くのも遅いほうだと思います。
駆け出しの頃の、今でも忘れられないエピソードがあります。
新米の私は、直属の上司である先輩に連れられ、様々なお客様のところへ同行する日々を送っていました。
当時、その事務所では、クライアント先で伝票を集計するという、かなりアナログな習わしがありました。
ある日、慣例どおり「(300枚もの!)伝票を電卓で集計」という指示が発令されます。
いち早く計算をスタートした先輩をふと見ると、驚くような猛スピードで電卓を叩いています。
新米職員の私は、今以上に電卓を叩くのが苦手でした。しかも、先輩の恐ろしく手慣れた姿を見て、平常心でいられるはずもありません。
結果、何度やり直しても、焦るばかりで数字がまったく合わないという悪循環に陥ったのです。
「合わないな」「すみません」というやりとりが延々と続き、とうとう上司に言われました。
「お前って使えないな~。向いてないよ。税理士ヤメたほうがいい」
エース職員から言われたあるアドバイス
今と違ってウブだった(笑)私はすっかり落ち込んでしまい、こう思ったのです。
(税理士というのは、こんなにも手際良く電卓をたたくことができないといけないのか。だとしたら、ホントにムリなのかもしれない)。
事務所に帰り、いつになく元気のない私を見かねたのでしょうか。別のある先輩がこう語りかけてくれました。
「五島君、300枚の伝票を、どれだけ早くたたいたところで、どのくらいの時間の短縮になると思う? 多分、2分か3分ぐらいしか変わらないよ」
先輩の言葉は続きます。
「それよりも、お客さんがいつも安心して会社をやっていけるってことが、俺ら税理士の仕事なんだ。だからスピードなんか気にする必要はない。俺だって電卓叩くの遅いし」
その先輩は、事務所でもっとも多くのクライアントを抱えるいわばエース職員でした。そんな憧れの先輩の一言で、もやもやとした不安は一瞬にして吹き飛びました。
そう、私は危うく、この仕事本来の目的を見失うところだったのです。
クライアントの“安心感”をサポートする
もちろん計算が不得意より、得意なことに越したことはなく、一つのアドバンテージであるといってもいいでしょう。
しかし、電卓をいくら早く叩けても、クライアントが求める安心感を提供できなければ、会計ソフトと何ら変わりません。
ちなみに、私は今でも電卓を叩くのは苦手ですが、そのことが仕事に影響を及ぼしたことも、一度もありません。
そもそも、会計ソフト、クラウド会計など、テクノロジーが発達するなかで、もはや電卓を叩くという作業さえもなくなってしまうかもしれません。
だからこそ、「計算しかしない税理士はもはやいらない」。私はそう考えています。
クライアントが安心して会社を経営していけるということ。この最優先事項を念頭に、“電卓嫌い”の税理士として、今後もお客様に真摯に向き合っていく所存です。