税理士の月次訪問って必要? その意義と定期的な“ヘルスチェック”のあり方を考える
毎月、担当税理士が会社を訪問し、適正な経理処理や経営が行われているかどうか把握する月次訪問。多くの税理士事務所であたりまえのように組み込まれている、この業務メニューの意義や必要性に関して、私見をお話ししたいと思います。
月次訪問が税理士業界に広まった時代背景とは?
――税理士事務所のホームページを見ると、さまざまなところで月次訪問(月次巡回監査)というものを行っているようですが、一体どんなことをしてくれるのでしょうか。
五島 税理士が毎月、クライアントを訪問し、月単位での売上などの数字、会計データのチェックを行なうものです。
今は、多くの税理士事務所で実施されていますが、一昔前は年に一度、決算時期のみに訪問する税理士のほうが多数派でした。
とくにバブル時代などは、どの会社も景気がよく、税理士が訪問する頻度も年1回で良かったわけです。
ただし、景気悪化により、税理士の存在意義を改めて見直す動きが出てきた。
つまり、年1回の決算時のみでなく、月次決算といって、業績管理のために毎月、決算を行なうべきであり、そのために毎月の訪問を推進する事務所が増えてきたのです。こうして月次訪問が慣習化していったわけです。
――じゃあやっぱり、税理士には、毎月、来てもらったほうがいいのでしょうか?
五島 そうとも言い切れないところがあります。
私も10年ほど前までは、すべてのクライアントの元に毎月、訪問していた時期がありましたが、今は全企業に必ずしも月次訪問が必須だとは考えていません。
会社の実態や経営者のタイプ、ニーズによって、訪問の頻度を決めればいいと思っています。
月次訪問が必ずしも必要でない会社、効果的な会社の違いとは
――では、月次訪問の必要性が薄い会社というのは?
五島 数字の管理や精査ができている会社で、かつ、経営者が自力で事業の計画を策定や見直しができる、つまり自己管理が徹底している方ならば、必ずしも必要ではないかと思います。
とくに、すべての会社に対し、毎月、伝票類をこと細かくチェックし、3000円のファミレスの領収書一枚で税理士がゴチャゴチャ言うというのは、時間のムダほかならないというのが私見です。
税理士のいわばエゴ、押し付けであって、お客様のビジネスにとって何の意味を持たない気がします。
――では、逆にどんなタイプの会社や経営者が利用すると有効なんですか?
五島 たとえば、日々休みなく仕事に追われ、数字の管理までとても手がまわらない経営者。
小売業を営んでいるクライアントの中でまさにそういう方がいて、毎月○日の○時と定期的に私が訪問する日時を決めておくことによって、ある意味“強制的”に前月の数字を〆、経営状態を振り返る時間を作っているという人がいます。
とくにほとんど一人で会社を背負っているような方は、業務に忙殺されているがゆえに気づかない些細な変化や、どうにかしなきゃと思っているけど、目をつぶってしまっている、ことってありますよね。
たとえば、取引先の数が最近減ってきているとか、収入源がある特定の一社に偏りがちになっているとか。
このように単なる数字のチェックではなく、トータルでビジネスの実態、問題点を振り返り、次月に活かす。これこそが月次訪問を行なう意義だと、私は考えています。
それでも定期的な“ヘルスチェック”はあったほうがいい
――では、自分自身で数字の管理や振り返りができるなら、数カ月に一度の訪問にし、顧問料を安くしてもらったほうが合理的でしょうか。
五島 そうですね。ただし、必ずしも月イチの頻度で税理士と会う必要はないにせよ、数字を見てもらえる機会を定期的に作る、“ヘルスチェック”は続けていったほうがいいと思います。
私の場合は、月次訪問の契約でない場合も、「3カ月に一度は数字を上げてください」ということをすべてのクライアントに伝えています。
経営が悪化している場合、年1回の決算時だけでは、“手遅れ”になるケースもあるからです。
一方で、惰性的に月次訪問が行われているとか、本業が忙しいなか、時間をせっかく作っても、経営に効果を得られていないと感じるなら、月次訪問そのものの意義を見直す時期にきているのかもしれません。
会計、経理業務はあくまでも本業をサポートする業務。そこに時間やお金をかけすぎるのは本末転倒と心得ましょう。