ココぞという時に「言いにくいことを言える」税理士としてのスタンスを大事にする理由
以前、「税理士として『ちょっとしたお節介』を大事にしている理由」というコラムで、税務に限らず、経営やお金にまつわる“よろず相談”にお応えする私のポリシーについてご紹介しました。
ただし、“ちょっとした”と付記しているように、誰にも彼にもお節介を焼いているわけではありません。
そこには私なりの基準、スタンスがあります。
今回は、私がクライアントにあえて言いにくいことを申し上げる際の考え方、大事にしている視点について、もう少し書いてみたいと思います。
「赤字=悪」。だからこそ言わなければならないこともある
私がさまざまな提言、助言をさせていただくクライアントは、特別、ご相談がない限り、「売上・利益が上がっていない」、つまり「赤字が続いている」ケースに限ります。
逆を言えば、黒字の会社、うまくいっている経営者に対しては、経営スタイルが多少強引に映ろうとも、あるいは経費をやや派手に使っていようとも、それで利益が上がっている以上はこちらから何かを申し上げることはありません。
ただし、赤字が続き、遅かれ早かれ事業が傾いてしまうリスクがある時は別です。
たとえ、社会的に意義がある事業であろうと、社長にとって思い入れのあるビジネスであろうと、「赤字=悪」というのが私の考えです。
厳しい言い方ですが、赤字である時点で社会に求められていない。あるいは、ビジネスモデルに何か問題がある。
事業として基盤や存在意義をしっかりと確立できていないと判断できるからです。
経営者のプライドがビジネスのハードルになることも
では、どんな時にどう言いにくい助言をさせていただくか。2社の例を挙げましょう。
1つ目の事例は、某スーパーの経営者です。
初めてお会いしたのは、先々代から続く青果店を食料品スーパーに業態変更したばかりの時でした。わざわざ経営コンサルタントを入れ、売上予想などの数字に沿って従業員も雇用。華々しくオープンしました。
しかし、オープン後の状況を聞くと、想定外に売上が上がっていないといいます。
数字を見たところ、売上が予想の7割程度しか上がっていない。売上の見立てがやや甘いのに加え、人件費などのコストがかかり過ぎている。
私は率直に申し上げました。
「この状態では半年か3か月で廃業に追い込まれかねません」
初対面で失礼ともいえるストレートな物言いだったと思います。しかし、決して大ゲサではなく、それがリアルな実態でした。
その社長はすぐに余剰人員を減らし、コストを削減。なんとか経営を立て直すことができました。
もちろん、すぐに助言を聞いていただけないケースもあります。
2社目の経営者は、売上減に応じて給料を下げたほうが、とやんわりと申し上げていたのですが、プライドもあってかなかなか行動に移してくれません。
しかし、このままでは手遅れになりかねない。
「大事なお話しがあります」。そのことを言うだけのために面会を申し込み、率直に申し上げたところ、真意を汲んでくださったようで、給与減に踏み切ってくれました。
「このままでは会社が潰れる」。数字のプロだから見える経営の実態
私とて人間です。「言いにくいことを言って、嫌われたくない」という思いもあります。
怒りを買ってしまったら、契約を切られてしまうリスクも大いにあります。
それでも、「言うべき時は言う」という姿勢を大事にしているのは、
「ここで私が言わなければ誰かが社長に進言するだろうか。いや、誰も言わないのでは」という思いがあるからです。
その点では、経営者の右腕である№2の取締役に、「しっかりと社長を支えるように」とあえて苦言を呈したこともあります。
「このままでは会社が潰れます」。
こんなことを言えるのは、数字を見て、経営の実態を把握できる税理士だからこそという自負もあります。
もちろん、経営者が置かれている状況、パーソナリティによっても、何をどう申し上げるべきかは変わってきます。アジャスト(調節・調整)の最適化も大事な視点です。
長期的に見ればクライアントのメリットにつながるはず。そんな思いで “ちょっとしたお節介”を上手に焼ける税理士のあり方を、日々、模索しています。
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