事業再生・財務revitalization

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事業再生実録 — 経費削減だけでは会社は立ち直れない。「儲かる仕組み」が経営の明暗を分ける

事業再生実録1

大胆なコストカットで、業績がV字回復! そんな企業再生の事例が、世間をにぎわすことがあります。しかし、こうしたシナリオが有効なのは、不採算部門を縮小しても、他に成長が期待できる事業を擁し、経費削減に関しても効果が出やすい一定規模以上の企業に限定されがちです。ここでは、私が実際に着手した企業再生の事例から学んだ教訓をご紹介します。

資金繰りに苦しみ、トイチに手を出す

会社の経営にとって最も重要なことは「儲かる仕組み」を作ること--。
他のコラムでも何度か述べてきましたが、なぜ、私はそのことを強調するのでしょうか。

それは、会計事務所に勤めていた頃から担当していた、あるクライアントの存在が大きく影響しています。

そのクライアントは、築地市場で果物の仲卸をしている、社員数名程度の小さな企業でした。仮にA社としましょう。
もともと他の税理士事務所と顧問契約をしていたのですが、トイチ(高利貸し)でお金を借り、返済に苦しんでいたことから、相談に訪れたのです。

果物の仲卸業は、仕入れ先の市場には仕入れて約3日後ぐらいに支払いをしなければならないのに対し、卸先のスーパーや青果店からは、一般的に翌月末にならないと売上金が入ってきません。つまり、運転資金2カ月分ぐらいの余剰資金がないと、常に資金がショートしてしまいます。
当初、銀行からの借り入れで補てんしていたA社ですが、業績不振によって赤字が膨れ上がり、これ以上の借入は不可に。こうして、手を出すべきでないトイチに頼ってしまったのです。

事業再生実録2

経費削減によって黒字化に成功! だが…

「もはや立て直しは厳しいのではないか」。会計事務所の見方は、所長を始め、事業再生に否定的な意見が多勢でした。
しかし、「何かできることがあるのではないか」。
あえて私は手を挙げ、A社の担当者として、立て直しに乗り出しました。

まずは、「日々のお金の工面に精一杯で、儲かっているのか分からない」という自転車操業の状況から脱すべく、現状把握からスタート。
次に、社長と話し合いながら、従業員の給料カットを始めとした、経費削減を進めていきます。社長そして社員も必死で頑張り、なんと1年も経たないうちに、毎月の収支が黒字化したのです。これは私にとっても本当に嬉しい出来事でした。

ところが、5年後、その仲卸は、倒産してしまいます。

「儲かる仕組み」が構築できないビジネス

倒産の大きな理由は、経費を節約したものの、「売上が立たない」、よって「儲けが少ない」という根本的な問題を解決できなかったことでした。

A社は、スーパーや青果店などの卸先が少なく、売上を上げ、儲けを増やすためには、卸先を増やす必要がありました。
しかし、黒字になった後も、卸先が少ないため、常に手元に資金がない。よって、新たな仕入れができないため、卸先を増やすことができないという悪循環から抜け出せない状況でした。
また、新たな青果店と取引を始めても、売上規模が小さいので、それほど儲けは増えない。つまり、非常に儲けにくい、もっと言えば世の中のニーズが低いビジネスモデルというわけだったのです。

社長からすれば、「なんでこんなに頑張っているのに、儲からず、いつも資金ショートに怯えなければならないんだ」という思いでいっぱいだったでしょう。
やがて、会社の帳簿には、明らかに使途不明金が増えてきました。辛さに耐えられなくなってきたようで、飲み歩くことが増えていたようです。

最終的には、持ち家を売り払い、子供二人を抱えて、倒産してしまいました。

いくら頑張っても、ビジネスモデルがダメなら、事業再生は難しい

このクライアントとの仕事で学んだのは、「いくら経費を削減しても、粗利が低い、つまり世の中のニーズが低いビジネスモデルでは、真の意味の事業再生は、なかなか難しい」ということです。

だから、会社が儲かるようにするには、理想的には事業を興した時点で、遅くとも事業を立ち上げて間もない頃に、「このビジネスは、儲かる仕組みを作り上げられるのか否か」を考える必要性がある。そんなことを気づかされました。

このような経験から、私は、クライアントに対して、「儲かる仕組み」の重要性について、口酸っぱく説くようになったのです。

自社のビジネスは、「儲かる仕組み」を作り上げることができるのか。経営者の皆さんには、ぜひ一度立ち止まって、客観的に自社のビジネスを眺めてみることをおすすめします。

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