経営者にとって「自己破産」の本当のコワさとは? “底”に堕ちる前にやるべきこと
自身のお金が会社の資金に直結しやすい中小企業の経営者だからこその「自己破産」リスク。しかし、経営や自身の財布がピンチに陥る前に、税理士が手を尽くせることは少なくありません。自己破産の本当の恐ろしさ、顧問税理士との関係性のあり方について、私の考えをお話しします。
自己破産の先にあるモラル破綻
――最近、経営者で自己破産した人の話を聞いたんですが、経営者たるもの、万一の自己破産のリスクについても、事前に知っておくべきかなと思っています。
五島 そうですね。日頃からそういう心配ができる人や、慎重な経営をしている人は、自己破産に陥る前に何かしらの対策を打てるはずです。
では、自己破産した人が失う最も大きなものは何だと思いますか?
――借金はチャラになりますよね。家屋を没収されるとか、数年間借入ができないとか。社会的信用ですか?
五島 確かにそういうこともありますが、自己破産に追い込まれた人たちにほぼ共通してあるのが「モラル破綻」です。債務がなくなることと引き換えに、人間性やこれまでの人間関係をたちどころに失う可能性があるのです。
私の知人のケースを挙げましょう。仮にAさんとします。Aさんには、会社の経営が苦しく、困っているBさんという友人がいました。
ある日、Bさんは、自宅を売って会社の借金の返済にあてるから、そのための引っ越し費用を100万円貸してくれと、Aさんに頼んだそうです。
借金の返済にあてた残りのお金で引っ越し代は返すからと。
しかし、後からわかったことですが、Bさんは経営再建に向けて、経費削減などさまざまな苦しい資金繰りに追われるなかで、次第に気持ちもすさみ、飲み歩いたりしていたようです。
Aさん以外のさまざまな人からもお金を借りるようになり、結局、会社は倒産。自己破産に追い込まれます。自宅の売却金は自己破産の清算にあてられ、Aさんが貸した100万円は返ってくることはありませんでした。
他にも同じように借金を踏み倒される結果となった方は少なくないでしょう。
自己破産してしまうことで、自暴自棄になったのかもしれませんが、借金はなくなっても、そこで失った信用や人脈は二度と取り返すことができないものです。
税理士は会社の数字を精査できる唯一の人間
五島 ここで私が自戒の念も込めつつ、税理士として一番言いたいのは、そんなことになる前に、顧問税理士は何か打つべき手はなかったのだろうか、ということです。
税理士は唯一、その会社全体の数字を俯瞰し、チェックできる立場にいる人間。
銀行員とて、決算書の数字を見ることはできても、その中身や背景を細かく理解することはできません。税理士がきちんとしていれば、何とか救えるチャンスはあったのではないでしょうか。
――つまり、もっと良い税理士を入れるべきだったということですか?
五島 「良い税理士」というのは、その人が税理士に求めるものによっても変わってくるかと思いますが、たとえば会社の経営が悪いなか、一発逆転を狙って、割に合わない株や保険商品に次々手を出してしまう……そんな経営者に対し、知らん顔をしている税理士も残念ながら存在します。
税理士としての業務範囲は、基本的に税務に限られる。つまり、保険ならば、保険料を経費に計上できるか、という部分しかないからです。
私は、税理士としての業務の範疇に関係なく、「株、保険、土地など、数字の大きなものを法人または個人で契約する前は、私に声掛けしてください」とすべてのクライアントに伝えています。ウマイ話に騙されてしまう経営者も多く、結果、会社の経営が傾くようなリスクにもつながるからです。
打ち明けづらいことも相談できる税理士を
――つまり、プライベートなお金の話も包み隠さず話せる税理士を味方につけられるかどうかが肝要といえそうですね。
五島 そうですね。税務に関する業務では、問題のなくこなせる税理士であっても、「心の内を打ち明けにくい」「仕事以外のことは相談しにくい」ようなケースだと、後々支障が出てくる可能性もあります。
税理士を決めるポイントとして、よく「相性の良さ」が挙げられたりしますが、「言いにくいことも話せるかどうか」こそが、究極的に、その税理士と合う・合わないの「相性」につながっていくものだと思うのです。
少し話は逸れましたが「自己破産」というのは、経営者にとっての“底”であることに間違いありません。そうなる前に常日頃から、できること・やれることを経営者と共に真剣に考えていくことも、税理士の大事な役割であるというのが私の考えです。
すでに顧問税理士がいる方も、その関係性について、今一度、見直してみることをお勧めします。